いつ・どう切り出す?タイミングと伝え方のコツ
「親の介護がそろそろ必要になってくるかもしれない。だけど、相続の話なんて縁起でもない…」
そんなふうに感じて、話し合いのきっかけを先延ばしにしているご家庭は少なくありません。でも実は、「介護」と「相続」は切っても切り離せない問題です。できるだけ早い段階で、少しずつ家族の想いをすり合わせておくとよいでしょう。

たとえば、Bさん(50代女性)のケース。
隣の市で一人暮らしをしている80歳を超えた母親は家事もきちんとこなし、近所の手芸サークルにも入り元気に過ごしていました。ところが、80代半ばからは物忘れがだんだんひどくなってきて、迷子になってしまうこともありました。デイサービスをお願いしましたが、お迎えがきても休んでしまいます。そろそろ老人保健施設への入所を検討しなければならないと、遠方に暮らす兄に相談しました。久しぶりに電話をしたところ、「仕事が立て込んでいて余裕がないからまかせるよ。自分は何もいらないから財産も自由にしていい」と言われてしまったそうです。Bさんは驚きとともに、「県外の大学を出してもらったのに、兄は母のことよりも仕事が大事なのか」と複雑な思いになりました。
介護と相続の話はこのように電話などでしてはいけません。つい感情的になったり、後で言った言わないでもめたりしがちです。Bさんの場合には最終的には長男である兄が取り仕切ることになったら、Bさんも不満を爆発させるかもしれません。では、介護と相続の話はどのように始めたらいいのでしょうか?
一番おすすめのタイミングは、「介護が必要になる少し前」です。みんなが自然に集まる機会が作れたらいいですね。お祝い事や法事、お盆や年末年始などがよいでしょう。

たとえば「まだ元気だけど、もしも介護が必要になったら・・・」という会話の流れで、「あわせて相続のことも、お互いの気持ちを確認しておいた方がいいかもしれないね」と、自然に話題を広げることができます。
伝え方のコツは、“家族としての想い”を中心に話すことです。
「お母さんに安心して過ごしてもらいたいよね」「みんなが揉めないようにしたい」といった気持ちを先に伝えると、相手も構えずに話を聞きやすくなります。
さらに、必要に応じて第三者である専門家を交えて話すことで、感情的な対立を避けながら、具体的な準備を進めることもできるでしょう。
「そのうちに話さなきゃ」と思いながら、つい先送りにしがちな話題こそ、家族の未来に大きく影響します。
大切な人が元気なうちに、できるだけ穏やかに、そして前向きに話し合っておくこと。それが、“思いやりのある相続の基礎”になります。
ちなみに、先ほどの50代女性のケースの前半は私自身のことです。認知症が進行し始めた母から24時間電話がかかってきたり、施設からいなくなったり、骨折や脳梗塞で入院したりといろいろなことがありました。でも、その都度、妹と相談したり愚痴を言い合って乗り切ることができています。現在は認知症がさらに進み、私のことも誰かわからなくなってしまいましたが、心穏やかに過ごしてくれるだけでよいと思っています。
